弁護士ブログ(日々の出来事)

2013年3月31日 日曜日

債権執行は?

 前回、破産に続いて、東京地裁と大阪地裁での不動産競売まで進んだ。そうなると、皆さんも、残る債権執行がどうなっているのか、気になるところであると思う(?)。これも24年(1月から12月まで)の東京地裁と大阪地裁の状況である(金融法務事情1966号)。
 

 数字を挙げる前に確認だが、債権執行とは債権差押の意味である。つまり、判決や和解調書あるいは公正証書を得たが、相手(債務者)が任意に支払をしてくれない場合に、裁判所を通じて、相手(債務者)の持っている債権(例えば、銀行預金、企業なら売掛金債権、個人なら勤務先に対する賃金債権な)を差し押さえるということである。債権執行とは、裁判所から銀行や売掛金先、勤務先(これらは総称して第三債務者と呼ばれる.)に対して、債務者への支払いを止め、その後債権者へ支払うようにする手続きである。

 東京地裁では、平成15年1万1392件、20年1万3728件、24年1万1257件であり、大阪地裁では、15年7741件、20年6735件、24年7839件とどちらも年度による変化は大きくない。それより東京で1万件を超えるぐらいという数字が意外と少ないと感じられるのではないかと思う。実は、債権執行申し立ては決して楽な手続きではない。最高裁の平成23年の判決により、差押える債権が銀行などへの預金債権の場合、単に銀行名だけでなく、支店名まで記載する必要があるとされ、また、それぞれの支店ごとに債権額を割り付ける必要があるからである。

 個人の場合はそこまで知ることはほとんど難しく、会社の場合も取引先銀行の支店名まで調べる必要があるからである。債権者にそのような情報を調べる義務がるするのが、基本的な考え方だからである(この考えが、現代社会でも通用するのかどうか議論のあるところである。)。
 

 債権執行の申立て件数は、裁判所での判決や和解調書の数と比較すると相当に少ないと思う。そうなると、結局、判決をもらっても紙切れに過ぎないという話にもなる。裁判制度の中で、それで良いのかどうか、改めて考える必要がある。そういう意見が増えていきそうである。
 

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2013年3月28日 木曜日

不動産競売事件の数はどのくらいなのか

 金融法務事情では前号の破産事件に続いて、東京地裁本庁と大阪地裁本庁の平成24年の不動産執行事件の概要が掲載されている(3月25日1966号)。

 不動産競売事件数は、東京地裁が平成15年4609件、20年3669件、24年2692件と減少している。大阪地裁でも平成15年4483件、20年3365件、24年2391件と減少している。双方の経済力の大小を考えると、東京の方が競売件数が少ない。不動産競売事件となる紛争数が東京と大阪で同数とは考えられないので、東京では競売事件にまで行かないうちに任意売却などの方法で解決しているということなのか、大阪の方が紛争解決手段として不動産競売が、使いやすい方法として認知されているということなのかは分からない。
 

 競売事件での売却率(落札率)は、東京が、平成17年以降90パーセントを超え、24年も97パーセントとなっている(21年は9割を下回った。)。大阪では、18年から90パーセントを超えている(20年、21年は9割を下回った。)。なお、東京、大阪とも、自用マンション(債務者兼所有者が自用の不動産(自宅など)として使用するもの)の競売事件(明け渡しが比較的容易な事件)について申立てから配当まで7か月程度で終了する運用を行っている(大阪ではファストトラックと称しているようである。)。

 その他の事件を含めても、東京、大阪とも申立てから配当間での期間は短くなっており、東京で10か月、大阪で8,5か月という状態のようである。これには、物件の案内が不動産競売物件案内サイト(BITシステム)によりスムーズにいくようになったことが大きいようである(引渡命令もその一助になっている。また取得代金へのローンの付与が容易になったことも大きな要因だろう。)
 

 引渡命令についても、東京地裁で、平成15年1732件、20年809件、24年815件と減少しているが、平成20年以降は一定数の申し立てが存在する。売却実績(平成15年2680件、20年1772件、24年1851件)との対比からすると、20年、24年ともに4割を超えており、引渡命令をもらえる事件が競売事件となっている可能性がある。大阪では引渡命令が平成15年732件、20年540件、24年683件であり、それぞれの売却件数(15年2426件、20年1941件、24年2032件)と比較すると、ほぼ3割程度にとどまる。これはどういう
意味なのか、大阪の競売申立事件の多さにどのように関連しているのか興味深い。

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2013年3月23日 土曜日

破産事件は、どのくらいあるのだろうか

 毎年、この時期になると、前年の裁判所で扱った破産事件の概要が金融法務事情に掲載される(1965号)。札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡の裁判所である(いずれも本庁-福岡の場合は北九州、久留米を除く福岡地区だけである)。
 

 平成24年(1月から12月)での新受件数を平成18年と比較すると相当に減少している(札幌4817→2779、仙台2313→943、東京25694→15923、名古屋4791→2587、大阪11921→7034、広島2632→1356、高松801→358、福岡4614→25299.ただしこのうち法人は減少していない((札幌144→190、仙台20年との比較94→46、東京2421→2866、名古屋267→385、大阪777→785、広島80→121、高松資料なし、福岡161→171)。

 つまり、自然人破産がかなり減ったということになる。この傾向は、24年だけのことではなく、この数年のことである。以前は、サラ金破産となった人が、逆に過払金がはいることになって、破産を免れたということなのかもしれない。
 

 このことは、破産事件の中で破産管財人がつけられる事件が増えたことにも表れているように思う。法人の破産事件では、ほとんど全事件で管財人がつけられる。それ以外の自然人の場合にどの程度の割合で管財人がつけられているかは、裁判所の運用によって異なるが、東京地裁では弁護士数が多く少額管財事件制度もあって6割近い事件で管財人が付されており、資料から直接読み取れないが自然人の場合も3割以上の事件で管財人が付されているようである(名古屋もほぼ同様である。)。

 札幌は自然人管財人律が25パーセント、大阪地裁では、全事件で3割、自然人管財事件で2割程度である。福岡では全体で2割弱、自然人管財で12パーセント程度である。自然人破産事件における換価基準そのものは裁判所による大きな違いはないようであるが、運用については、微妙に違いがあるようである。

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2013年3月10日 日曜日

銀行への弁護士会照会(東京地判平成24.11.26)

 一般の人にはわかりにくいかもしれないが、弁護士法には、弁護士会が、会員(弁護士のこと)の受任している事件についての申出を受けて、適切な場合は、公務所または公私の団体に対して、その報告を求めることができる(弁護士法23条の2)。

 これは、提訴前にできることから、弁護士にとって非常に便利な制度となっている。例えば、携帯電話の番号しか分からない場合に、液体電話会社にその番号での登録住所を知る場合などである。

 どのようなことまで照会できるかどうかの問題もあるが、紹介先にこれに応じて報告する法的な義務があるのか、拒否された場合はどうなるのかなど問題点が多く存在する。応じるべき義務につては、この制度が弁護士法という法律に定めがあることから、照会先は、これに応じるべき法的義務があると考えられている。ただし、照会先も照会された事項が第三者の個人情報であることから、その第三者との関係で守秘義務がある場合など簡単にこれに応じられないということがある。

 また、照会先にこれに応じるべき法的義務があるとしても、拒否された場合に、照会するのは弁護士会であって、個々の弁護士ではなく、また依頼者ではないから、だれが照会先に対し、何らかの請求をできるかが問題となる。
 

 この判決(東京地判平成24.11.26金融法務事情1964号108頁)は、銀行に対する照会を、銀行はこれを拒否した事案についての判断である。この事件は、債務名義を持った個人が、相手方の取引先と考えられる銀行に対して、①銀行預金濃霧、支店名、口座番号などの照会、②相手方が個別の口座から第三者への送金の事実の有無などを、弁護士会を通じて照会したところ、銀行がこれを預金者の同意が確認できていない、顧客の応諾不可につき回答不能などの回答がされた。
 

 このため、依頼者が、銀行を被告といsて、銀行には弁護士会に対する報告義務が存在すること、②銀行が報告しないことが依頼者に対する関係で不法行為に当たるとして慰謝料を請求した事件である。
 

 判決は、①弁護士会照会に対する報告義務が法的な義務であることを確認したうえで、照会を受けた銀行に報告しない正当な理由がある場合は、報告を拒絶できるとしている。
 

 ②正答理由の判断に際しては、弁護士会照会制度の司法制度における重要な役割に照らし、また決済機能を独占する銀行の公共的責務という観点からすると、金融機関の一般的な守秘義務を考慮しても報告しないことに正当な理由があるとは言えないとする(債務名義が存在する以上、権利者からの義務者の預金状況については権利者に対する関係では保護されるべき営業秘密とは言えない。義務者の第三者への送金の状況も同様に権利者との関係では保護されるべき営業秘密ではない。)。
 また、弁護士会へ報告することは正当行為であり、預金者に対する不法行為にはならないとしている。

 ③依頼者が、銀行に弁護士会への報告義務濃霧を確認する訴えの利益があるかについては、こうれを肯定している(理由は銀行が応じないことにより、依頼者(債務名義上の権利者)の義務者に対する権利が侵害されている。依頼者は弁護士会照会により保護されるべき権利の救済を求めるため、公法上の法律関係の確認の訴えとして、報告義務の確認を求めることができる。)。

 ④慰謝料請求については、報告義務についての判断が明確でないことなどの事情から銀行に違法性についての認識が無かったとして、請求を棄却している。

  この判決に、銀行は控訴している。預金者の保護されるべき正当な利益を、債務名義の存在を理由として、弁護士会照会による利益より低いものとみている点など興味深い判決である。

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2013年3月 7日 木曜日

賃借人からの解除(東京地判平成24年6月26日)

 不動産賃貸借契約の賃借人から行う解除は、結構微妙な問題である。家屋賃貸借契約における賃貸人からの解除は、信頼関係破壊の理論に基づいて単純な債務不履行では解除はできないとされている。では、賃借人から行う解除の場合はどうであろうか。
 

 信頼関係破壊理論は賃借人保護という要素が大きいと考えられる。ただ、民法は賃借物の一部が滅失した場合はその残存する部分のみでは賃貸借の目的を達しない場合に限って賃貸借を解除できるとしているばど(611条2項)、一部の債務不履行があってもそれだけでは解除できないという立場に立っていると思われる。

 そこで、賃借人は、賃貸人にどのような債務不履行があれば賃貸借契約を解除できるかという問題は結構大きな問題となる。
 

 それは、賃借人からの債務不履行解除が認められない場合は、単なる中途解約の申し入れということになり、中途解約の場合は、例えば6か月間の予告期間を要するとか、敷引特約がある場合は、その分の敷金が差し引かれるからである(債務不履行解除が認められる場合には、敷引特約は働かないと考えられている。)。

 そうなると店舗や事務所などの場合は、1年程度の賃料分が返還されるかどうか、という結構大きな問題となることになる。
 

 東京地判平成24年6月26日(判例時報2171号62頁)は、東京新宿のビルの地下1階を賃借したテレマーケティング業者が日常的にコバエが発生しており、それが賃貸人の賃貸借契約上の債務不履行に当たるとして、経済的損害、無形の損害についえの損害賠償責任が認められたがそれに基づく解除は認められかったケースである。
 

 この裁判例は、日常的なコバエの発生の事実、その発生原因がビルの汚水槽の機能や構造にあるとの事実を認めたうえで、従業員が不快感を持つとともに、、事務に集中できない、コバエ対策のために総務担当の事務員がゴミの処理について従業員に注意を促す広報に従事するなどの余分な業務が増える、窓が開けられない、外部から来た客の不快感に苦慮するなどの事実を認めて、本件賃貸借契約の目的に沿った賃借人の利用が一定程度背言されたとし、賃貸借契約上の賃貸人の債務不履行の成立を認め、損害としてコバエ発生の調査費用、コバエ発生のために退職者がでたことからその補充のために増加した労務費の一部いついても、損害を認め、さrない無形の損害(上記従業員の不快感など財産上の損害と異なる「数理的な算定のできない無形の損害」を認めている(ほぼ1か月の賃料と同額)。

 このように、賃貸人の債務不履行は認められ、一定程度の損害の発生は認めたものの、信頼関係が破壊されていたということはできないとしたものである

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